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ABEY代表・上村通典さんが歩んできた、美容師としての道




県内でメンズサロン「ABEY」を展開する、代表の上村通典さん。


美容師として働き始めた頃から掲げていたのは、「8年後に独立する」という目標でした。

その目標から逆算し、モデルハントや技術練習を重ねながら、自らの力でキャリアを切り拓いてきました。


独立後に上村さんが直面したのは、技術や集客の問題ではなく、「人を育てること」の難しさでした。
自分の成功体験をそのまま伝えるのではなく、一人ひとりが持つ強みや、本人が本当にやりたいことを見つけていく。
現在の上村さんは、プレイヤーとして前に立つだけでなく、スタッフの可能性を引き出す役割にもやりがいを感じています。


Behind the Mirror初の取材記事となる初回記事は、上村さんが美容師を目指したきっかけから、
独立までのキャリア、そしてABEYで大切にしている「人の育て方」についてお話を伺いました。




上村 通典(かみむら・みちのり)
1994年生まれ。新潟県長岡市出身。新潟市の美容専門学校卒業後、長岡市内の美容室に入社。
約3年半勤務した後、メンズスタイルをより深く追求するため、メンズを中心とした施術に理解のあるサロンへ移籍しました。
その後、メンズサロン「ABEY」を立ち上げて独立。
現在は県内に3店舗を展開し、サロンワークと並行して、スタッフの育成や組織づくりにも力を注いでいます。



友人の髪を切ったことから始まった、美容師への道

上村さんが美容に興味を持ったきっかけは、自分の髪をセットすることが好きだったことでした。

学生時代には、友人から「髪をセットしてほしい」「切ってほしい」と頼まれるようになり、
美容のシザーではないハサミで実際に友人の髪をアレンジしたこともあったようです。


「家族が美容師だったわけではないんです。自分の髪をセットするのが好きで、友達の髪もやるようになって。
そこから自然に美容師を目指すようになりました」


美容学校への進学を決めた背景には、それと並行してサッカーを仲間の同級生の存在もありました。
その友人が新潟市内の美容学校へ進むと聞き、上村さんもそれに乗っかるカタチで同じ学校を選びました。


最初から細かな将来像を描いていたわけではありません。
しかし、自分を始め、身近な人の髪を整え、喜んでもらった経験が、美容師としての最初の一歩につながって行ったのだと思います。

「8年後に独立する」未来から逆算した新人時代


美容学校卒業後、上村さんは長岡市内の美容室に入社しました。
入社前の面談でオーナーより将来の目標を聞かれたものの、その場では答えることができませんでした。
そのきっかけで「入社から8年後に独立する!」という目標を立てました。


「8年後に独立すると決めて、そこから逆算しました。独立するためには、何年目までにデビューしないといけないか?

いつまでに店長を経験するか、デビューしたときにどれくらいの売上が必要か?
そこから、今やらなければいけないことを考えていました」


当時は多くのモデルを探し、営業後も遅くまで練習を重ねていました。
それでも、上村さんの中に「やらされている」という感覚はありませんでした。


「モデルハントも、誰かにやれと言われたからではありません。自分が決めた目標を達成するために必要だったので、やっていただけです」


遠い目標を掲げるだけでなく、そこにたどり着くまでの行動を分解して具体的にしていく。
その考え方は、上村さんの美容師としての土台になっているように感じました。

それぞれの強みを持った先輩たちから学んだこと

最初に勤めたサロンでは、それぞれ異なる強みを持つ先輩たちから多くのことを学びました。

モデルハントや行動量など、目標に向かって進むための力を教えてくれた先輩(後にこの先輩のお店で勤務します。)
技術練習を見ながら、美容師としての成長を支えてくれた先輩。
そして、人や組織、チームのつくり方について教えてくれた先輩(今は長岡市内で美容室を経営されています。)


上村さんは、当時の環境について
「それぞれ違う強さを持った先輩がいて恵まれていた。」と振り返ります。


一人の考え方だけを受け継いだのではなく、さまざまな人の強みを吸収してきた経験は、現在のスタッフ育成にもつながっています。
誰かを一つの基準に当てはめるのではなく、その人が持っているものを見つけて伸ばしていく。
上村さん自身も、多くの先輩から異なる形で可能性を引き出してもらった一人でした。



メンズスタイルを、もっと深く追求したい


最初のサロンで多くの経験を積む一方、上村さんの中には、次第に自分が本当に取り組みたいことも見えてきました。
それが、メンズスタイルでした。
幅広い年齢層やさまざまなお客様が訪れるトータルビューティサロンの中では、
メンズだけに集中して技術や発信を追求することには限界もありました。
若い男性のお客様との会話や接客も含め、自分がつくりたい空間と、
当時働いていたサロンの雰囲気との違いを少しずつ感じるようになりました。


「メンズをやりたいのに、メンズだけに集中することができない。自分がやりたいことを、100%出し切れる環境ではないと気づきました」


そこで上村さんは、メンズ美容を理解してくれる先輩の独立に合わせてサロンを移ることを決めました。
それは、最初に立てた計画を諦めるための転職ではありませんが、
8年後の独立という目標へ近づくために、
その時の自分に必要な環境を選び直した決断でした。

東京のサロンへ通い、見よう見まねで技術を磨いた


当時は現在ほど、メンズカットを専門的に学べる環境が整っていませんでした。
上村さんは、東京の有名なメンズサロンへ実際に髪を切りに行き、
施術を受けることで技術を真似ながら学びました。


「東京の有名な美容師さんに切ってもらって、その技術を見て、自分でも真似していました。
最初は展開図なども全く理解していなかったので、本当に見よう見まねでした」


多くのモデルを担当し、試行錯誤を繰り返しながら、自分の技術として身につけていく。
そうして培った経験は、お客様へスタイルを提供するうえでは大きな力になりました。


しかし、独立後にスタッフを迎えたことで、新たな課題が見えてきます。
自分では感覚的にカットすることができても、その技術を言語化して理論的に伝えることができませんでした。


「自分は切れるけれど、人には教えられない。そのことに、スタッフが入ってきて初めて気づきました」


技術ができることと、技術を教えられることは違う。
上村さんにとって、独立後の最初の大きな壁は「教育」でした。

独立後に気づいた、人を育てることの難しさ

ABEYの立ち上げ当初、上村さんは一人でサロンワークをしていました。
以前から担当していたお客様が引き続き来店してくれたこともあり、
独立したエリアが少し勤務していたサロンと離れてたのに順調でした。


上村さんは、お客様との関係を
「美容師とお客様というより、友人や少し年上のお兄ちゃんのような距離感だった」と振り返ります。

「何でも話せて、髪を切ってくれる人。その中に、少しだけ尊敬できる兄貴的な部分がある。そんな関係だったと思います」


技術だけではなく、人としての関係性を築いてきたことが、独立後のサロンを支えていました。
しかし、オープンから半年ほど経ち、スタッフが加わったことで状況は変わります。


スタッフは技術を身につけ、成長したいと考えている。
一方で、上村さんには、その成長を支えるための仕組みがありませんでした。


「スタッフは上手くなりたいと言っているのに、そのための環境をつくることができない。
そこで初めて、教育をきちんと考える必要があると感じました」


技術者としての経験だけでは、スタッフを育てることはできない。

その気づきから、外部のサロンとも協力しながら、ABEYの教育環境を整えていきました。

今、一番うれしいのはスタッフの成長

現在の上村さんが、仕事の中で最もやりがいを感じるのは、スタッフの成長が見えたときです。
売上が上がったときや、お客様が増えたときもうれしい。
しかし、それ以上に心を動かされるのは、人としての変化を感じた瞬間です。


周囲に合わせることを好まず、一匹狼気質で、先輩にも遠慮なく意見を伝えるスタッフがいました。
そのスタッフが先輩となり、新しく入ってきた後輩をどう育てればよいのか悩み、上村さんへ相談するようになりました。


「自分のことだけでなく、後輩のことを考えて悩むようになった。
その姿を見たときに、『こんなふうに成長したんだな』とうれしくなりました」


技術が上達することだけが、成長ではありません。

仲間のことを考え、人と一緒に仕事をする難しさに向き合う。
その中で変わっていくスタッフの姿に、上村さんは喜びを感じています。




厳しさだけでは、人は育たない

上村さん自身、以前はスタッフへ厳しく接していた時期もありました。
自分が努力を重ねて成長してきたクラシックスタイルの美容師だったからこそ、
スタッフにも同じような強さや経験を求めていたのかもしれません。


しかし、さまざまなスタッフと関わる中で、厳しくするだけでは人は育たないことに気づきました。
現在は、上から目標を与えるのではなく、本人が何をしたいのかを一緒に考え、それを言葉にすることを大切にしています。


「こちらから『こうしなさい』と決めるより、その人が何をやりたいのかを一緒に言語化する。
目標がはっきりすると、本人たちは自分から動いてくれます」


上村さんが歩んできた道は、上村さん自身にとっての成功例です。
しかし、同じ方法がすべてのスタッフに合うとは限りません。
人によって、目標も、得意なことも、成長する速度も異なります。
自分のやり方を押しつけるのではなく、その人に合った道を一緒に探す。
それが現在の上村さんの育成スタイルです。

自分が前に立つよりも、誰かの強みを生かしたい

現在のABEYには、上村さんだけでなく、それぞれの店舗や分野で存在感を発揮するオピニオンリーダーいます。
最初から一人ひとりを目立たせようと計画していたわけではありません。
日々関わる中で、その人の魅力や強みを見つけ、

どのような役割であれば最も力を発揮できるのかを考えてきた結果です。


「この人には、この役割が合っている。本人がやりたいことと、その人の強みが生きる場所を合わせていく感覚です」


かつては自らが技術を磨き、プレイヤーとして前に立つことを目指していた上村さん。
現在は、自分が主役であり続けることよりも、スタッフ一人ひとりの可能性を見つけ、それを形にする役割に力を注いでいます。


サロンワーク以外の場面では、スタッフと食事会などに行き、サロン外でのでコミュニケーションを取ることも大切にしています。
店舗へ頻繁に顔を出し、経営者として指示を出すのではなく必要なときに話を聞き、背中を押す。
上村さんは、スタッフとの距離を近く保ちながらも、
それぞれが自分の力で進める環境をつくっています。

スタッフの「挑戦したい」から、新しい店舗が生まれる

今後は、現在の3店舗でスタッフ約30人の組織をつくり、その先に新たな店舗の展開も考えています。
さらに将来的には、上越への出店も構想しています。


上越への出店は、上村さんが最初から計画していたものではありません。
上越出身のスタッフから「地元で店舗を任されたい」という声が上がったことが、きっかけでした。


現在の新潟市内の店舗も、スタッフの「新潟でゼロベースでもいいから挑戦してみたい」という言葉から始まっています。
「会社として店舗を増やすというよりも、スタッフが挑戦したい場所があって、
それなら一緒にやってみようという流れが多いです」


新しい店舗は、経営計画だけから生まれるものではありません。
ABEYでは、スタッフの夢や目標が、会社の次の挑戦へとつながっています。

「Always Be Yourself」に込めた思い

ABEYという名前はマリリンモンローの「Always Be Yourself」という言葉から名付けられました。


「あなたは、あなたらしく生きよう」


この言葉は、お客様へ向けたメッセージであると同時に、ABEYで働くスタッフにも向けられています。
スタッフの個性や考え方を否定するのではなく、その人らしさを生かす方法を一緒に考える。
「それは違う」と決めつけるのではなく、「それなら、こうしてみたらどうだろう」と可能性を広げていく。
サロンの名前に込めた思いと、現在の組織づくりの考え方は、同じ場所につながっています。

あり方があって、やり方がある

上村さんがABEYで大切にしているのは、技術や経営手法だけではありません。
その前にある、「どのような美容師でありたいか」という姿勢です。


「僕たちは、ただお金を稼ぐためだけに美容師をしているわけではありません。
新潟の男性をかっこよくするために、自分たちがいると思っています」

技術を学ぶことも、売上をつくることも、店舗を増やすことも大切です。


しかし、方法や結果だけを追いかけてしまうと、何のために美容師をしているのかを見失ってしまうことがあります。


「あり方があって、やり方がある」


店舗やスタッフが増えても、ABEYが大切にする姿勢は変わりません。
お客様が自分らしくいられるスタイルをつくること。
スタッフが自分らしく挑戦できる環境をつくること。


上村さんが歩んできた美容師としての道は、
現在、ABEYで働くスタッフ一人ひとりの新しい可能性へとつながっています。




びびわ〜く編集部より

今回の取材で印象的だったのは、上村さんが自身のキャリアについて話すときよりも、
スタッフの成長について話すときのほうが、なんだかうれしそうに見えたことでした。


入社当時から「8年後に独立する」という目標を掲げ、その未来から逆算して行動してきた上村さん。
モデルハントや技術練習を重ね、メンズスタイルを追求し、独立という目標を実現してきました。
その歩みだけを見れば、強い意志で自らの成功を切り拓いてきた美容師という印象を持つかもしれません。


しかし、現在の上村さんが見つめているのは、自分自身の成長だけではありません。
スタッフ一人ひとりが何をしたいのか。その人の強みはどこにあるのか。そして、どのような役割であれば、その人らしく力を発揮できるのか。
自らが経験してきた成功の形を押しつけるのではなく、本人の中にある可能性を一緒に探していく。


ABEYに異なる個性を持ったスタッフが育っている理由は、上村さんのこうした姿勢にあるのだと思います。


「Always Be Yourself」
この言葉は、お客様へのメッセージであると同時に、ABEYで働くスタッフ一人ひとりにも向けられています。
新潟の男性をかっこよくすること。そして、美容師が自分らしく挑戦できる場所をつくること。


上村さんがこれからつくっていくABEYは、店舗数だけでは測ることのできない広がりを見せていくのかもしれません。